写植屋と詐欺師と編集者の共犯関係。中島らも『永遠も半ばを過ぎて』の軽い感想。

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中島らもの小説『永遠も半ばを過ぎて』の感想。永遠は「とわ」と読みます。

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映画「Lie lie Lie」原作小説

「本というのはね、近い将来に失くなるんではないかと思っているんです。」

『永遠も半ばをすぎて』中島らも

本作は『12人の優しい日本人』などで有名な中原俊監督の手によって、『Lie lie Lie(ライ・ライ・ライ)』のタイトルで1997年に映画化されました。

2023年8月現在、この作品はVHSの形式のみでリリースされており、VODでの配信はありません。

自分は偶然Youtubeでこの作品の切り抜きを目にして興味を持ちました。しかし、映画版を観る手段がなかったので、原作小説を手に取ったという次第です。

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ストーリー:スカッと系の悪巧み

大まかなストーリーは、普通に暮らしていた男たちが、ある利害関係のもとで共謀し、詐欺に手を染めるという内容。

ただし、ここで言う詐欺とは、相手を陥れようとかそういう陰湿な感じではなく、小芝居を演じて要領よく金を稼ごうという小悪党的な動機に基づいています。騙す相手が碌でもない人間のパターンもあり、むしろスカッと系のジャンルに属するエンタメ小説と言えるでしょう。

本筋と並行して、登場人物たちの訳ありの過去や複雑な内面も描かれており、爽快な笑いと同時にどこか哀愁を漂わせる大人の青春映画のような趣も感じられる作品でした。

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感想:初めての中島らもに痺れた

中島らもの作品を読むのは初めてでした。

ハードボイルドとまではいかなくても、独特の緊張感と危険な雰囲気がある作風で、惚れ惚れするようなキラーワードも大量にあり、かっこいい文章を書く人だなぁと。

それでいて、説教臭さや無理なかっこつけもなく、ストーリーもサクサクと進行していくため、非常に読みやすく、そして楽しい作品でした。

若干のジェネレーションギャップ

約30年前の作品ですからね、結構な歴史を感じました。

まず物語冒頭…主人公波多野はたのは電算写植機のオペレーターの仕事を…。

…え?写植って何?

調べてみると、写植(しゃしょく)とは、写真植字の略であり、写真の原理で印字する印刷技術で、その写植作業の一部をコンピューターによって一部自動化し、オペレーターがより入力に専念できるようになったシステムを電算写植と呼ぶらしいです。

要するに、波多野は1日中パソコンの前でカタカタする日々を送っているわけです。

他にもインスタントコーヒーが溶けにくいなどの時代描写に、時折「え?」と躓くことがありました。青空文庫などで昔の作品を読むことはありますが、30年でもなかなかの歴史を感じますね…。

印象に残ったシーン

切り抜きで見た紙の本云々のところは、小説でも面白かったですね~。意外に序盤でしたが、そこまでに至るドラマも丁寧に描かれており、実際の実行シーンも緊張感たっぷりで読み応えがありました。

個人的に印象に残っているのは、波多野が薬の力で名文を生みだすシーン。

目が滑るような文字の羅列の中に少しずつ主観が入り込んでいく演出は、変化していく思考回路をリアルタイムで追っているようで、本当に波多野の主観に入り込んでいるような気がして恐ろしいほどでした。これまで寡黙だった波多野の内面が描かれる重要なシーンでもあり、あらゆる面でインパクトがありました。

何万字もの文字を打ち続けてきた波多野が名文を生み出すってのは、まるでビッグデータの集積から生まれてすごいことになったChatGPTみたいだなと思いました。これ、1994年の作品です。

ただし、名文を生み出すことができても、手応えを感じることがないのは、AIも同じ気持ちなのかなと。ストーリー終盤には小説や作家に関する議論もあり、その点でも興味深く読めました。面白かったです。

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