有栖川有栖『こうして誰もいなくなった』の感想。玉石混交の短編集。

3.5
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成立事情がバラバラの短編集

こうして誰もいなくなった』は、有栖川有栖のミステリー中短編集。

ラジオのスクリプト、企業からの依頼、アンソロジーへの寄稿など、成立事情がバラバラの作品を集めているので、一冊の本にまとめられているからといって統一性はありません。

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質は玉石混交

ぶっちゃけ当たり外れの差が大きかったですねー。「は?」としか思えない駄作もあれば、夢中になって読める良作もあり、なかにはタイポグラフィとかいう意味不明のものもありました。毎回新鮮な気持ちで読めるのが短編集の魅力ですが、本作はそれをより強く感じました。

タイポグラフィとは、文字の外観や配置を工夫することで、文章を読みやすくしたり、美しくしたり、印象的にしたりする技術や芸術のことです。タイポグラフィには、書体やフォント、行間や文字間、配置や階層など、さまざまな要素があります。

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お気に入りエピソード

特に面白いと思ったのは、以下の4つ。

  • 怪獣の夢
  • 劇的な幕切れ
  • 本と謎の日々
  • こうして誰もいなくなった

怪獣の夢

怪獣の夢ばかりみる男が…。

最後まで全容が掴みづらい話で、どういう話なのかを頭で整理しながら読むのが面白かったです。個人的に本作で一番印象に残った作品でした。

統一性はないと言いながらも、この作品までは全体的に笑える話やズッコケ系が多かったので、やっぱりこれもそうか? と考えたり、川…怪獣…夢…といった題材から、予言系?地理系?深層心理系?あるいは夢オチ的なものか? とも考えました。わからんわからんと読み進めていったオチで驚愕。読後は気持ち悪さと構成の妙にしばらく唸りました。

幼き頃の父の影響を感じられ、なんらかのトラウマを暗示しているようにも思えました。

劇的な幕切れ

男女二人で心中のはずが…。

なんといっても、

などと考えた。

の威力が凄まじく、これは小説でしか楽しくないタイプですね。

なんとなく予想のつく展開ではありましたが、生々しい描写が良かったです。絶対何かが起こるだろうなという期待感にちゃんと応えてくれた優等生みたいな作品。ミステリーというかドラマとしても面白く、劇的な幕切れについては、救われた説も多いですが、自分はとても救済とは思えませんでした。むしろ訓戒的なものかと。

本と謎の日々

本屋アルバイトの女子高生と店長による書店ミステリー。

謎の緊張感とふざけた結末の連続でコントみたいでした。気楽に読めて自然に笑えました。この短編集の中で、エンタメ性でいったら一番だと思います。めっちゃ深夜ドラマ感がある。

舞台が書店であるため、本の取り扱いに関する描写が多かったです。解説によると、作者は実際に書店で働いていたことがあるそうで、確かに妙に凝ったディティールでした。

知っている本の名前が登場したときはムフフと笑えました。なかでもレイ・ブラッドベリの『刺青の男』は今年読んだばかりだったので、驚きと喜びが……しかし、その悲しい用途には笑えて泣けました…。

自分の信念や快楽原則に沿ったもだけを選べば、心が狭まることもある。

こんな感じで、どこか達観した店長のセリフには深い含蓄がありました。気を許した作品というのもあって、素直に心に響きましたね。自分も結構偏っている方なんで気をつけたい…。

こうして誰もいなくなった

表題にもなっている「こうして誰もいなくなった」は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を下敷きにした100ページ超えの中編。

原作未読でも楽しめる配慮

原作の設定の多くを引き継いだわかりやすいオマージュですが、絶妙にネタバレを避けた書き方をしているので、原作を読んだことない人でも楽しめます。途中で「あの作品に似てない?」のようなやり取りがあるのですが、タイトルは知っていても誰も結末を知らないというところがリアルでした。

時代は平成の終わり

あとがきによると、時代背景は平成の終わりらしく、全体的に現代的なワードが多いです。ブラック企業だとか、ひき逃げモデルだとか、仮想通貨だとか、ドローンだとか、いちいち新しい。犯人の動機も、なんともまあ奇天烈なものでしたが、現在社会の闇と言われれば納得できるものでした。

特に印象的だったのが、音信不通ながらもスマホが重要な役割を果たしていたことですね。携帯の普及以降、こういうクローズドサークルでは音信不通=携帯用無しがセオリーだったので、可能性を示した新しい切り口だなーと感心しました。

まあまあ

トリックも含めて全体的にはまあまあ。原作と比較しながら本格ミステリーとして普通に楽しめましたが、突き抜けるものはなかったかなと。ミステリーの妙味というより、時代性を描きたかったように思います。

当たりが出ればラッキー

短編なので良くも悪くもダイジェスト的で、劇的な展開が多く、つねに新鮮な読み心地で最後まで飽きずに楽しめました。

玉石混交、当たり外れがデカいんで、さほど期待せず、たまに当たりが出ればラッキーくらいの軽い気持ちで読むのに適している本かなと思います。逆に言うと、あまり期待しすぎないほうがいいってのもありますね。

あとがきで成立事情や狙いについて一作品ずつ言及されているので、全作品を読み終わった後に、もう一度振り返る楽しみがあったのも良かったです。ある意味公式ネタバレなんですが、よくわからなかった作品も消化できて読後爽快です。

有栖川有栖デビューにぜひ。

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