練られた設定、鮮やかで簡潔な解決、健気でかわいい主人公『首無の如き祟るもの』感想

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横溝テイストの本格推理小説

首無の如き祟るもの(くびなしのごときたたるもの)』は、三津田信三(みつだしんぞう)のホラー・推理小説で、刀城言耶(とうじょうげんや)シリーズの第3作。

刀城言耶シリーズどころか、三津田信三の作品すら初見でしたが、まったく違和感なく読めました。

印象としては、徹底的に設定を煮詰めた本格派の横溝正史といった感じですかね。奇妙な因習の残る村社会の複雑な人間関係が鍵という大きな流れは横溝正史っぽいのですが、歴史と伝承の深掘りや、時間、閉鎖空間に厳格な本格ミステリテイストな点が独自の魅力かなと思います。

架空の地名に由来があったり、同じ漢字でも異なる読み方があったり、地形、家系図、伝承の希少性、儀式の作法など、細部に至るまで考え抜かれた設定には驚かされました。それでいて心理描写も自然で、まったく奇をてらうところがないので、登場人物たちにも心から共感でき、作中世界にどっぷり没入することができました。

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ストーリーは作中作

舞台は媛首村(ひめかみむら)という架空の村。旧家である秘守(ひがみ)家で起きた戦前、戦後の2つの惨劇の真相に迫ります。

構成がやや凝っていて、以下のような構成になっています。

刀城言耶が媛之森の遺稿を再構成

媛之森妙元(ひめのもりみょうげん)こと高屋敷妙子(たかやしきたえこ)が事件についてまとめた「媛首山の惨劇」

  • 斧高(よきたか)少年目線の話
  • 高屋敷(たかやしき)巡査目線の話

作品の大部分を占めるのは、事件の渦中にいながら、立場的年齢的に絶対にシロであろう少年と警察の視点から描かれる話を、高屋敷の妻である妙子がまとめた「媛首山の惨劇」という作中作です。ちなみに、刀城言耶はちょこっと登場するだけ。

一般的に、ミステリーの作中作と聞くと、それ自体に仕掛けがあるように思われますが、本作の場合、冒頭で叙述トリックの否定をしています。他にも問題編/解決編の合間の小休止など、ミステリー好き読者を意識したかのような書きぶりで…その配慮を含めてもう完全に…大変気に入りました。

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感想:思っていた以上に本格

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タイトルの「首無」、ホラー小説という触れ込み、そしてインパクトのある表紙──なんて怖そうな小説なんだろうかと恐る恐る読み始めたことを覚えています。

で、開始早々から出るわ出るわ名詞の嵐。「ひめくび」「ひめかみ」「ふたがみ」「みかみ」、漢字の読み方ひとつとっても微妙な違いがあり、その量と細かさに驚かされました。それになんだか重要そうな気もする。これは覚えられんと思い、メモを取りながら慎重に読み進めました。

その分、読了までには時間がかかりましたが、短い読書時間でも毎回新しい情報が手に入り、展開もスピーディで、苦痛や退屈を感じることはなかったです。読書以外の時間でも、寝る前や散歩中にふと考え込んだり、作品の世界に没頭した日々でした。

そして、ミステリーとしては、やはり解決のカタルシスが本当に素晴らしかったです。ある1つの事実を手がかりに、するすると複雑な問題が解けていき、すべてが整然としていく様は見事としか言いようがないです。その上で、真犯人が仕掛けた二重三重にかけられたトリックが明らかにされる瞬間は、ただ真相が明らかになるだけでなく、その魅せ方も衝撃的で、真相はもとより、演出にも感動しました。ミステリー的な妙味はもちろん、シンプルにエンターテイメントとして読んでいて非常に楽しめる作品でした。

同性愛について

時代的にも、作風的にも古風な雰囲気を持った作品ですが、性についての描写はものすごく現代的に感じました。

本作には、入れ替えの要素を強く想起させる描写が多く、その中心に立つのが長寿郎という人物です。彼は最重要人物の1人で、一応男なのですが、中性的な見た目ということもあって、女かも?と思わせる要素やエピソードを持ち合わせています。

そこに絡んでくるのが、語り手の1人でもある斧高よきたか少年で、彼は長寿郎に仕えながらも主従関係以上の感情を持ってしまいます。性自認もハッキリしない多感な時期にいる少年の視点で、性別不詳の人物が描かれているわけです。

斧高が自分に同性愛の嗜好があるのか、あるいは長寿郎が実は女ではないのか?…または別の可能性が…といった感じに煩悶する姿はとても生々しく、また愛らしくもありました。

少年の性の目覚めがドラマとしても推理としても重要な要素として描かれているところは、非常に斬新で面白いなと。

この同性愛のテーマが、単に奇異なものや先進的なものではなく、個性としてじっくり描かれているのが良かったですね。辻褄、設定、属性も大事ですが、キャラクターが生き生きとしているドラマが何よりも本作最大の魅力であったと思います。

補足:Wikipediaはネタバレなし

首無の如き祟るもの - Wikipedia

ネタバレを避けるために、読書中は作品について調べることをやめてましたが、読み終わった後にウィキペディアを確認したところ、作品の内容をネタバレせずに簡潔にまとめた用語集がありました。

読書中に、用語や要点について忘れてしまったよーという人はウィキペディアの利用がオススメです。

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