ライトに読めるが興味深い。神道について学べる大人気歴史ミステリー『アマテラスの暗号』の感想。

4.0
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『アマテラスの暗号』は伊勢谷武いせやたけるによる歴史ミステリー小説です。

長かったですが、読み物として非常に面白い本でした。

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意外と読みやすかった

「ダ・ヴィンチ・コードを凌ぐ」という売り文句や、700Pを超えるというAmazonレビュー、本を開いた最初の登場人物紹介の長さに、「なかなか大変そうな本だ」と思いながら読み進めました。

結論から言うと、めっちゃ読みやすいエンタメ小説でした。

確かに固有名詞は多いし、次から次へと謎が出てくる感じは『ダ・ヴィンチ・コード』のようでしたが、読みやすくする工夫がいくつか施されており、むしろ読みやすい部類の本だったと思います。

区切りが多い

Kindleで読みましたが、短いところだと、2,3ページで区切られることも珍しくないです。長くても5分も読めば区切りがくる感じですね。

集中力がないときでも、細かく読み進められるのが良い点ですが、ノッてきたと思ったら中断させられるのが、なんとももどかしいです。

個人的にはポジティブに捉えてますが、この点を気にする不評レビューも多いですね。

エンタメ系である

『ダ・ヴィンチ・コード』はわりとシリアスな作品でしたが、それと比較すると本作はだいぶライトです。

「これ以上は…」という引き止めは何度もあるのですが、実際に主人公がピンチの状況はかなり少なく、敵も尾行しているわりにぜんぜん追いつかなくて、緊張感に欠けていたと思います。

この作品の本質は、作者の持論の披露にあり、小説形式を用いているだけで、小説の妙味である内面描写や比喩表現といったものはないに等しいです。

そのため没入感や読み応えといった面では薄いかもしれませんが、ライトな文体のおかげでリラックスした気持ちで読むことができ、フェアな感情で考察に向き合うことができました。また、申し訳程度のアクションシーンがあり、固有名詞が続く中、ちょうどいい気晴らしとして楽しめました。

資料が多い

読みやすく書かれていても、固有名詞の数はとんでもなく多いです。祭り、神話、祭具、神社、国名…耳馴染みもないし、似たような名前のオンパレードです。

この理解の助けとして、図解や写真が添えられているのですが、まあその数たるや。歴史の教科書や観光ブックを読んでいるような感覚になります。

小説の中でこんなに写真を見たのは初めてです。

文字だけで演出するのもいいですが、具体的な場所が出てくる時は、写真があると情景がより鮮明に思い浮かぶので自分的には助かりました。

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日ユ同祖論を軸に神道の謎に迫る

本作の軸となるのは日ユ同祖論と神道の関係です。

日ユ同祖論とは、日本人とユダヤ人の祖先が同じとする、かなり昔からの陰謀論の1つです。個人的にも興味を持った時期はありました。本作でも出てきましたが、遺伝子で似通ったところがあるというのを見て「マジじゃん」と思っていました。中東からグラデーション的に広がっていくのではなくて、間をすっ飛ばして日本だけと似通っているのが妙だなと。さすがに今ではトンデモ論の1つとして自分の中に決着をつけていますが。

その日ユ同祖論を軸に、ユダヤ教や中東の文化と神道の歴史を比較し、新たな一致点を探っていく過程が興味深くて面白かったです。どちらも歴史を遡ると神話的領域になり、客観的資料が少なくなります。だからこそ想像力の余地があるのでしょうね。

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ワンパターン的展開でリアリティが薄い

全体的に、ワンパターンでリアリティが薄いです。

大まかな展開として、移動→手がかり→移動→手がかりを繰り返すのですが、場所もリアクションも似通ったものばかりで、新鮮味がありません。

また、日本を舞台に暗躍する各国の諜報機関、神道に詳しすぎる外国人、馴染みのないワードの理解度が早すぎる主人公や、スマホでなんでも調べちゃう相方などに違和感を覚えました。都合の良い舞台装置のように感じられて冷めてしまいました。そこからの掘り下げがあったら良かったのですが、本当にただの表面的なものだったので。

影響はありそうだけど…

神道とユダヤ教との一致点には驚かされました。ユダヤ人が渡来して、支配者になったとまでは断定できないにしても、ユダヤ文化から何らかの影響があったのは十分可能性があることだと思います。聖書の影響がないわけがないですしね。

とはいっても、今回改めて唱えられた日ユ同祖論には、それでも乗っかれないなぁというのが正直なところです。神道にはフワフワしたところや矛盾のように感じられる点がいくつもあるのは事実でしょうが、それが神道の特徴であり良いところでもあると思います。それは西洋の歴史をみても分かります。西洋哲学の本なんていつの時代もキリスト教の話をしていますからね。その点、フワフワして終わらせようというところは、良くも悪くも日本人らしいと感じます。

解説系漫画のような読書感

評価するなら、

  • 小説としては、3.5
  • 神道を学べる雑学本としては、4.0
  • 日ユ同祖論の新論としては5.0
  • リアリティは2.5
  • 熱量は5.0

総合評価4.0。

トンデモ本の1つとして片付けるにはおしいほど本作はよく出来ていると思います。これだけの専門性、網羅性を持った作品はなかなかないと思います。

写真が多くて歴史の教科書や観光ブックみたいと前述しましたが、全体として解説系漫画のような読書感に近いです。一緒に物語を歩む主人公は、毒にも薬にもならない進行役みたいなもので、ドラマとしては薄い。けれど中身自体は興味深くて、へぇ~と感心しながらサクサクと読み進められる。ライトだけど興味深いという読書体験でした。

神道って身近なわりにはアンタッチャブルな存在で、正直よくわからないものでした。本作で学んだことは意外に多く、神話おもしろ!歴史おもしろ!ってなりました。

あとはやっぱり作者の熱意ですね。よくこれだけの大作を完成させたなと。あとがきにもありましたが、同じ説はネットではなかったという自負。読みやすくするための工夫の数々。完成させるまでの凄まじい努力と熱量に、がんばったね!と言いたい気持ちです。まあ作者クッソ年上なんですが…。

ガチで受け取らず、学べる娯楽小説くらいの気持ちで読むのが、ちょうどいい本だと思います。

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コメント

  1. 〇△▢乃庭 より:

     ≪…「アマテラスの暗号」…≫は、人(私たち)の言語(言葉)と数の言葉(ヒフミヨ)の分化・融合として眺めたい・・・
     大和言葉の[いろは詩]と[ひふみ詩]のルーツにありそうなのを「桜舞乱心*ひふみ詩」で知る・・・
     数の言葉ヒフミヨ(1234)が、世界で普遍言語なのを気付かせる・・・

     天岩戸は、ながしかくの扉(暗号)か?

    この物語の風景は、2冊の絵本で・・・
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  2. レンマ学(メタ数学) より:

     ≪…ユダヤ教や中東の文化と神道の歴史を比較し、新たな一致点…≫を、セヒロートの樹(セヒロートマンダラ)・ヴェシカ・パイシス・縄文文様・天岩戸(ながしかく)・両界曼荼羅などなどの時代を超えた文明の出会いを想う・・・
     『アマテラスの暗号』は、大和(矢的)に込められた呪文(マントラ)で、【ヒフミヨ】(ヒフミヨは天岩戸の祝詞かな)と観えてくる・・・

     大和言葉の【いろはにほへと・・・】と【ひ、ふ、み、よ、い、む、な、や、こ、と、・・・】との分化・融合を眺望できそうだ・・・

     数の言葉ヒフミヨ(1234)は、世界の普遍言語として、1・2・3・4次元で閉じて(計算できて)いる数の世界の自然数を手に入れている・・・

     この物語の淵源は、2冊の絵本で・・・
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