角田光代『いつも旅のなか』の感想。直木賞作家の海外旅行記。登場する国名は20ヶ国以上。

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八日目の蝉で有名な作家の海外旅行記

いつも旅のなか』は『対岸の彼女』や『八日目の蝉』で有名な角田光代かくたみつよさんによる海外旅行記です。

旅行は自身にとって純粋趣味だと語るほど旅慣れしている方で、ベタな観光スポットを巡るだけの一周目の旅行ではなくて、現地ならではの日常を楽しむことを重視したルポ的側面もあります。

本書だけでも20ヶ国以上の国が登場し、かなり経験豊富で手慣れた印象を受けます。異国の地なのに、落ち着いていて行動力も凄まじいです。

本書は月刊誌で連載していたエッセーをまとめたもので、初版は2005年と結構古いです。実際に旅行していたのは今から20年近く前のことだと思われます。年月は経っていますが、人と人の触れ合いを重視したエピソードが多いので古臭さはまったくありません。

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読み易いが考えられた文章

平易な文章で非常に読みやすいです。内容は時に日記のようにダラダラとしたものもありますが、構成に工夫があります。導入でそれとなくテーマが匂わされて、紆余曲折を経てそのテーマらしい結末に至るという、ある種伏線回収のような巧みなオチで終わるため、満足感があります。

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感想:旅行好きの人の気持ちが少しわかった

異国を通して自分を知るとか、海外旅行気分を味わえるとか、作者の着眼点が面白いとか、そういうベタな感想も持ったのですが、自分のようなインドア派の人間からすると、作者の存在そのものが異文化的でしたね。

趣味が旅行という人はよくいますが、そういう人たちの内面に迫ったものは意外となかった…というか興味がありませんでした。自分とは生きている世界が違うなと。本書を手に取ったのも、もっとライトな旅日記のようなものだと思ったためです。

本書を読み進めて作者のパーソナリティに触れるうちに、そのような趣味を持つ人々に対する理解が少し深まったような気がします。

旅行はどちらかというと活動的な趣味で、後先考えないポジティブ思考やコミュ力の高さから、陽キャの極みのような印象を持っていました。実際本書でも、作者のバイタリティやコミュ力の高さには目を見張るものがあります。けれど同時に、ネガティブな感情もしっかり持っていて、あぁ、ちゃんと地に足の付いた人間なんだなという気づきがありました。

初めて行く国は緊張するとか、ボッタクリへの異常な警戒心とか、こういうのを読むと「じゃあ行くな」「旅慣れしていてなぜ怯えるの?」と思ってしまうものでしたが、本書を読み終えた今となっては十分理解できることですね。

旅行に対してのネガティブな感情と、旅行好きというポジティブな感情は両立するということです。ダルいし、怖いし、当たり外れもある、けれどそれを凌駕する魅力が旅行にはあるのでしょう。

海外旅行は国内よりハードルが高いのは事実ですが、それに見合う見返りがありますね。マレーシアでの1日は映画にしても濃すぎると思うし、ロシアとモンゴルで感じた別種の空虚感は、国単位の壮大なスケールの話でした。

まとめると、海外旅行記としても、旅行好きの人のパーソナリティも知れる本としても興味深い内容で、新鮮な気持ちで読めた本でした。

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印象に残った国

  • フィンランドーロシア国境
  • マレーシア
  • モンゴル
  • タイ
  • キューバ

フィンランドーロシア

最初にフィンランドからロシアへの列車の旅の様子が描かれる。

親切なフィンランド人車掌とうってかわって、ロシア国境内では頑固で融通の効かないロシア人が描かれる。同じ列車内でこんなにも変化があるものかと驚いた。

続いてロシア国内での観光の様子。帝政時代の豪華絢爛な建物に漂う空虚感、壮大な空っぽ感。ロシアの壮大な領土を表すかのような建物なのに、それを否定した革命後の雰囲気とのミスマッチ。

人々の大らかさと裏腹の硬質な気風というのがリアルに感じられた。現在お騒がせ中の国の約20年前の姿。

マレーシア

旅慣れしすぎた筆者は、あえて予定をつくらないで「ハプニング待ち」のようなフラフラした行動をすることが多い。マレーシアでの体験はまさにそのハプニングの最骨頂という感じで、青春映画を何倍にも濃縮したような体験記。レストラン駄弁り、イカ駄弁り、釣り、砂浜のベッド…こんな非日常を経験したらハマっちゃう理由もわかる。異文化交流とかいう次元ではない。

モンゴル

モンゴル人はよく知っているけれど、モンゴルという国のことはよく知らない。なーんにもないらしい。道路だけ。都会と田舎の尺度では語れない壮大な景色に夢が膨らんだ。それでも現地には秩序だった日常がある。自分の見識の狭さを知る。

タイ

タイは筆者が海外旅行にハマったきっかけとなった国。衛生環境、貧困、親切、わかりやすくカルチャーショック。つねに意識し続けていた国で、あえて周辺国を観光してみたり、その絶妙な距離感は初恋のようだったと。

好意は文章も感じられる。あえて汚い部分を愛情たっぷりに語っているところがガチだ。

若者の衛生意識や街並みの変化に驚嘆と落胆しつつ、郊外の原風景にいまだに喜ぶ過去の人。本書の中で1番飾り気のない、でも愛に溢れた素敵な文章だと思った。

キューバ

本気で社会主義を実現しようとしている国の実情。本書の傾向として、客観描写か内面描写かのどちらかが優位のパターンに分類できるが、キューバの旅は客観描写が多く、いかに特殊な場所なのかが淡々と描かれている。有名も無名も入り混じり、親切で個性的で、生きる根源的なものが在る。旅人はそこに理想を見る。

キューバにハマる人って多いよね。なんとなく断片を知れた。

書評
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