人狼を題材にしたノベルアドベンチャー『レイジングループ』の感想【ネタバレなし】

5.0
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人狼を題材にしたビジュアルノベル

レイジングループは、KEMCOによる2015年12月にリリースの人狼ゲームを題材にしたホラーノベルアドベンチャーゲーム。

ストーリーをざっくりと説明すると、バイク旅行中に道に迷った主人公が偶然立ち寄った村で人狼ゲームのような奇妙な儀式に巻き込まれるという話で、リアルタイムで進行する緊迫感ある人狼ゲームを戦いながら、村が抱える闇を暴く伝奇ホラーです。

2015年12月スマートフォン用アプリ
2017年1月Vita
2017年3月PS4
2017年8月Switch、PC

最初はスマートフォン用アプリとして配信され、2017年にCS版(Vita、PS、Switch)、PC版が続けてリリースされました。今回レビューするのはSteamで購入したPC版です。

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オーソドックスなビジュアルノベル

ゲームシステムは、メッセージボックスに表示される文章を読んでいくオーソドックスなビジュアルノベル形式。アプリ版から始まったということで、スマホでのプレイを意識した大きな文字が特徴で、限られた文字数の中での洗練された独特な言い回しも魅力です。

また、アプリ版以外はサブキャラ含む全てのキャラクターがフルボイスで演じられています。ちなみに、声優は声優養成所に所属する人たちのようで(1)、わずかにアマチュアっぽさを感じられますが、個人的には違和感なく、むしろ聞き馴染みのない声が異質な雰囲気を加えている感じもして普通に良かったです。

ゲーム内では時折表示される選択肢によって展開が変化します。ただし、↑の画像のように、選択するのにキー情報が必要な場面があります。

キー情報とは、記憶を引き継いでループできる主人公が得られる”とっておきの情報”のことです。これらのキーは基本的にバッドエンドルートでしか集められず、バッドエンド=死、死=ゲームオーバーですから、最良のルートに進むにも何回かのゲームオーバーは必須です。

一発攻略は無理とはいえ、バッドエンドルートに突入するたびに新しい情報が集まっていくので、前に進んでいる感覚がずっとあり、閉塞感や手詰まりを感じることなく、進展し続けるシナリオをノンストップで楽しめます。リスタートする際も、シナリオチャートから簡単に好きなポイントからやり直すことができるのでセーブ&ロードの手間も不要です。

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本編クリアまで約20時間

インストールサイズは1.47GB

プレイ時間は以下の通り。

全体は数本のメインルートとそれらから分岐する細かいバッドエンド群で構成されています。

到達エリア累計プレイ時間
配信可能エリアまで約5時間
トゥルーエンドクリア約20時間
全ルート探索+クリア後要素約30時間
配信可能エリアまでは約5時間
配信可能エリアを超える手前でお知らせしてくれる機能もある

ネタバレ厳禁のストーリー系の作品であるため、動画サイトなどで配信できるエリアは「メインルート1本+2本目の途中」までに制限されています。実プレイ時間では5~6時間ほど。ちゃんとオチはつくけども、まだまだ謎が残るところで終わる感じですね。アプリ版ではメインルート1本は無料で配信されていました(現在は不明)。

トゥルーエンドクリアまで約20時間

すべての謎が明らかになるトゥルーエンドに到達するのには20時間ちょっとかかりました。メモを取りながら、かつボイスも再生したりしなかったりだったので参考になるかはわかりませんが…。

全コンテンツ既読まで約30時間

トゥルーエンドクリア後には、「暴露モード」「エクストラ(後日談)」「隠しエンド」が利用可能になります。

暴露モード」は、本作シナリオライターamphibian氏の定番?のシステムで、本編中のキャラクターの心の声や裏での会話が筒抜けになるオプションです。自分はもう1度本編を読み直すのはしんどかったので、既読文章はスキップし、未読文章だけ拾っていく読み方をしました。主人公の本音や犯人の思惑、ヒントコーナーの拡大版も面白かったです。

エクストラ(後日談)」はメインメニューから読めるギャグテイストの後日談ながら、シリアスに語られる本編の補完も含まれていたりして意外に充実の内容。最後の世界観については野暮だと感じましたが…。

隠しエンド」は、クリア後に追加される新たな選択肢を選ぶことで到達できるエンド。全ルート探索のついでに発見しました。内容はなかなかに強烈でした、いろいろと。全エンド、全ヒント閲覧後には最後のヒントコーナーがアンロックされ、そこでは制作秘話やタイトルの意味なども知ることができ、さらには暴露モードによる続きがあって…といった風に最後の最後まで楽しめる作品となっています。

感想:サスペンスとミステリーの二段ロケット

ゲームオーバーはご褒美です

率直な感想を言うと、序盤はやや退屈な進行でした。ゲームを開始して1時間経っても事件が起きないスロースタートで、不気味さはあれど、もどかしい時間が続きました。…それが一旦人狼ゲームが始まるともう…前に出ては吊られ…後ろに控えては吊られ…選択肢1つで生死が決まる臨場感満載のスリリングな体験に一気に引き込まれました。人狼ゲームで特に印象に残っているのは「暗黒」ルートのあの人。一言で表すならラスボス。思考もフィジカルもすべてを上回る相手に何度も押しつぶされて泣きそうな思いでした。それだけにやりがいもあって…。

ただ、人狼ゲームも悪くはないけども、そればかりでは一本調子的だなとも感じてきた頃合いに、それを上回る伝奇ミステリーをぶち込んできたのには驚きました。童歌はじめしっかりと練り上げられた設定の数々、線と線が結び合う瞬間には感動すらありました。普通にミステリーとして良く出来ている。

最後は人狼ゲームと設定の共通項が見事に融合した決着で、その斬新さと思い切りの良さに、お見事!って感じの結末でした。人狼ゲーム面白いな→ストーリーはもっとすごいんかい!という二段ロケット構成に見事心を持っていかれました。プレイして良かった、大満足の作品でした。

丁寧なつくりに好印象

本編前の注意事項

合理的な記述が多い作品ですが、その姿勢はゲーム仕様にも表れています。

まず本編前の導入。作品についての簡単な説明や残酷描写の非表示設定、動画配信時の注意などがあり、これらの礼儀正しいアプローチに開始数分で開発者を好きになりました。ただこれも考えてみれば合理的なこと。注意事項は必ず読ませたい文章であり、ストアページや公式HPに記載するよりも、本編前に埋め込む方が確実に読まれるはずです。

いつでも巻き戻り可能なチャプター選択とヒントコーナーも同様。多くの選択式ノベルゲームの攻略は結局、選択肢前でのセーブ&ロードの繰り返しになりがちです。退屈な探索作業はプレイヤーに負担がかかるだけで、およそゲーム性とは言い難いものです。それが本作ではチャプター選択ですぐに選択肢に飛べるうえ、ゲームオーバー後のヒントコーナーでは正しい選択肢の仄めかし(というか答え)もあり、ストレスフリーでサクサクと読み進めることができます。

ゲームの寿命を縮める仕様ですが、プレイヤーにとってありがたいことこの上なく、最後まで読ませたいライターにとっても、仕様が原因で脱落するプレイヤーを食い止める有効な施策で、これはぜひ他の作品でも採用されるべきだと思います。

ヒントコーナーでの”ひつじさん”によるゲームオーバー寸評も好きでした。ゴチャゴチャした終わり方でもスマートに言い表してくれるので、整理をつけやすく、あと結構人間味もあって、孤独な戦いに寄り添ってくれるパートナーのような存在でした。

こんな感じに全体的に礼儀正しく、ユーザーフレンドリーで、丁寧で、真摯に制作された作品だと感じられ、本編抜きでも非常に好印象を受けました。「たかがビジュアルノベルで過剰だろ」と思われる方もいるかもしれませんが、心遣いやこだわりが作品に表れていることは個人的にはかなり感動したポイントでした。

その他、ゲーム仕様で気になった点
  • エンドロール早送りはありがたい
  • 音量調整がややアバウト
  • UIアイコンがわかりやすい
  • 既読スキップも丁寧
  • PC版でUIを非表示にした場合、スペースで再表示…の説明がない

本編はガッツリ人狼ゲーム

さて、本編ですが、思っていた以上に人狼ゲーム要素が強かったですねー。”題材”や”モチーフ”とかいうレベルではなく、人狼ゲームそのものをプレイする感覚でした。

面白いのは、これがゲームではなく、現実に即して行われるという点。たとえば普通の人狼ゲームではセオリーがあり、自己犠牲的な行動を積極的に期待されることが多いですが、いざ現実に自分が犠牲役になれ!と言われたとき、それはなかなか受け入れがたいものです。

じゃあもう全員パニックなのかというとそうでもなくて、むしろ実践的で生々しいやり取りが繰り広げられることになります。そして、なんだかんだ言って生き残るのは口のうまい人間です。プレイヤーの分身たる主人公もその類で、俺TUEEE気分を楽しめる一方で、その話術ゆえの背徳的な考えも垣間見え、サイコパス小説の主人公のような危うさもまた魅力でした。

主人公の印象的なセリフ

そんな主人公の印象的なセリフが、

いいですか皆さん

という演説の始まりのような前口上。

このセリフが登場するのはクライマックスに近いところで、最大の盛り上がりで最大の穏やかさで語る主人公の狡猾さと邪悪さが表れているシーンであるのと同時に、本作の軸となる考え方である”ストーリーを紡ぐ”、象徴的な瞬間でもありました。

本作の人狼ゲームの参加者たちは、追従しかできない者、合理主義者、関係重視、道徳重視、直感に頼る者など、さまざまなタイプの人間が存在し、それぞれが異なる価値観に基づいた正しさを求めています。

そんな彼らによる人狼ゲームを通して本作が示すのは、彼らが納得する正しさを提示できれば、虚偽が混ざろうともそれは受け入れられるという事実です。

これは人狼ゲームに限らず、現実の社会においても存在する詭弁のロジックで、特に神秘的な分野でよく見られます。全員が納得すれば、その範囲内でのみ通用する常識として認識されます。そしてその常識の存在が疑わしくなったときは、再度全員で納得したプロセスを辿ることで再確認できます。しかし、そのプロセスを辿れない、もしくは存在しないのに常識が存在することがあり、それを黙認する人々を作中では「論理放棄者」なんて過激な言葉で呼んでいます。これは一種の盲信の状態です。

主人公は「自分が納得したことでないと受け入れられない」と再三主張し、論理放棄者と戦っていくわけですが、「合理的じゃないよ」「根拠は?」みたいな自分本位のフィールドで戦うのではなく、彼らが受け入れる「都合のいいストーリーを紡ぐ」ことで、彼らの常識の範囲内で常識を作り上げていくのです。

この行為は冷酷な現実主義的な人心掌握術であるだけでなく、規律をつくる社会制度にもなったり、良心をつくりあげる信仰にもなったりします。これがうまく機能すれば集団にとってはハッピーなことだと思います。要するに、ついてもよい嘘もあるということで、正しくも悪しくも使えるわけで、その両面を描ききったのが本作でした。個人的にも、ラストの主人公が村人の人々を騙るシーンは1番感動したシーンでしたし、言葉の力について、SNS時代の今では聞き飽きたベタな文句かもしれませんが、言葉は薬にも凶器にもなり得ることを改めて考えさせられた作品でした。

民俗学×文化人類学×日本神話

人狼ゲームだけだと一本調子になりがちなところを、村の歴史や信仰の謎に迫る伝奇ミステリー要素が下支えしていました。

この村はなんだ!?というところからスタートし、地形、地名、歴史、童歌、文化比較、日本神話などが緻密に絡み合い、休水という架空の地の独自の文化が解き明かされていく過程は、このネタだけでお腹いっぱいになるほど濃密なものでした。特に名称ね。由来に、漢字に、変化。何気ない1ワードに多くのドラマが詰まっていてロマンだなぁと。

神道について深掘りするところは『アマテラスの暗号』を思い出しましたね…。やっていることは似ている。神話には神話たる理由があると。

その他

ヒロイン

キャラゲーってほどでもないですが、キャラクターも個性的なキャラが揃っていて、中にはヒロイン属性のキャラもいます。イチャイチャするシーンも…。ただまあちょっと、シリアスな作品ということもあってか、ピーキーなヤツが多いですが…。Steamレビューを読むと、一部のプレイヤーはこれにドン引きしているようです。他作品にもいないタイプのヒロインで、独自性という意味では貴重ですが、現実にいたら距離を置きたいね…。

動機と顛末

黒幕の動機と顛末がやや不明瞭でした。後日談で多少の補完はできましたが、完全にスッキリとはいかず、それでもみんな幸せそうであれば問題ないかな! 世界観については、あんまり惹かれなかったけれど、先の主人公について触れた項目のような考え方がベースにあるのかもしれません。フィクションとリアルの境目的な。

ひぐらしとの関係

作中「ひぐらしのなく頃に」を揶揄するような描写が散見され、設定にも似通った点が見受けられ、なんとなくひぐらしっぽいなと思って読んでいました。シナリオライターのamphibianさん曰く、”レイジングループには紛れもない「ひぐらし」の血が入っている”とのこと2。その証左に本作には小説版もあり、最終第7巻には、竜騎士07の解説文が載っているとのこと。めっちゃファンやん。

まず間違いない作品

Steamストアレビューが圧倒的に好評なだけあって、文句なしの面白さでした。ただ、好評レビューの中にも細かい指摘点があって、穴がまったくない作品というわけではないのですが、基本的にはまず間違いない傑作だと思います。「ビジュアルノベル」「人狼」「サスペンス」「ミステリー」といった要素にビビッとくるものがあれば、ぜひプレイしてもらいたいですね。

Raging Loop on Steam
The feast has begun, can you escape the village alive?
  1. https://www.4gamer.net/games/319/G031995/20151203030/ ↩︎
  2. https://kemco.adv-game.com/?p=6324 ↩︎

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