ゲーム大賞優秀賞受賞のスクエニから出た低価格ホラーミステリー『パラノマサイト』思う所はあるが良い作品だった

4.0
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スクエニから出た低価格ADV

パラノマサイト FILE23 本所七不思議は、SQUARE ENIXによる2023年3月リリースのホラーミステリーアドベンチャーゲーム。本所七不思議を題材にした1980年代の墨田区が舞台の群像劇で、その完成度の高さから2023年のゲーム大賞で優秀賞を受賞した作品です。

タイトルの「パラノマ」は「パラノーマル(超常現象)」を指す造語で、同時に「パノラマサイト(グーグルのストリートビューのような360度見渡せるシステム)」にもかけています。

開発SQUARE ENIX
リリース日2023年3月9日
ジャンルビジュアルノベル、アドベンチャー、ホラー
価格1,980円
インストールサイズ790MB(Steam版)
クリア時間約9時間(クリアのみ)

特筆すべきは、あのスクエニから出た新規タイトルでありながら、2,000円という手ごろな価格で提供されている点です。この価格設定により、多くの人が手軽にアクセスでき、その結果、口コミ効果がより強まったのだろうと思います。また、こうしたストーリー系の作品では珍しくネタバレ回避の配信制限1がなく、多くの配信者によってプレイされたことも認知を広げていった一因でした。

ただし、価格に応じてボリュームは控えめで、自分のプレイではゲームクリアまでの所要時間は約9時間でした。人によっては物足りないかもしれませんが、サクッとプレイできるゲームを求める人にとってはちょうどいいかもしれません。

また難易度ですが、失敗してもノーリスクで即座にやり直せるため、難易度は低め、、、というかないに等しいです。ヒントも用意されていますし。

あと、一応ホラーゲームとして、ジャンプスケア(ビックリホラー)が何箇所かあるので注意が必要です。わあああああ!!みたいなの。

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基本は読むゲーム

立ち絵とメッセージボックスで構成されるアドベンチャー(ビジュアルノベル)のジャンルに属し、内容はホラー味のあるミステリーといった趣です。

「読む」だけでなく、ポイント&クリック型の探索、選択肢による推理やルート選択、また後述の「見渡す」機能もあって、ビジュアルノベル特有の文章を読むだけの単調さを感じさせません。区切りが多く、展開もスピーディーであるため、飽きずにかつ疲れずにゲームを進めることができます。

独自なシステムとして、「見渡す」があります。これはキャラクターの背景を360度見渡すことができるという機能で、空間が広がって臨場感が増すとともに、新たな発見のギミックにもなります。例えば、正面からは見えなかったものが振り向いた瞬間に現れたり、逆に誰もいないんかい!もあります。タネの有無にかかわらずプレッシャーを感じさせるものであり、ホラーテイストのゲームによく合致していました。

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感想:良く出来ているからこそ気になる点も

面白かったです!…が、個人的には大ヒットという感じではありませんでした。確かに良く出来ているけども、それはこの価格帯にしては…の話であり、引っかかるポイントがいくつかありました。とはいえ、それらの要因の多くは低価格帯ゆえのボリューム不足から生じたもので、全体的なセンスや作り込みについては文句なしに素晴らしかったです。

巧みなカメラワーク

こういう読み進めるだけのADVというと、立ち絵とメッセージボックスというのが定番で、本作もその例に漏れませんが、その魅せ方(演出)が素晴らしかったですね。まず、立ち絵は表情豊かで、正面絵だけでなくズームや横からのアングル、後ろからの視点など、緩急の効いたカメラワークに迫力がありました。

横顔を見れば一緒に行動している相棒感があるし、正面から見据えられると本当に目の前にいるような感覚が味わえました。

パノラマサイト、メタシステム

背景を360度自由に見渡せるパノラマサイトビューは、演出を一段とサポートする本作を象徴するシステムだったと思います。探索範囲が広がるだけでなく、振り向く行動が次のシーンに続くトリガーになることもありました。自ら操作して振り向くというのが、恐ろしくもあり、面白いところで、気乗りしない自分の操作カーソルすらも演出の一部になったようで、没入感をより高めてくれるシステムでした。

また、この作品はメタシステムが巧みに組み込まれているのも特徴的ですね。ゲーム起動の段階から”案内人”なる人物の手ほどきがあったり、ゲーム中の一部謎解きにもメタ的なアプローチが見られたりし、さらには実績解除にもメタ情報が絡んでいるのには驚きました。

このように、プレイヤー自身に直接訴えかけるような演出や仕掛けが豊富で、単なる傍観者ではなく参加者の1人としてプレイヤーをストーリーに引き込むパワーがありました。

以下多少ネタバレあり

シナリオについて

一方でシナリオについては正直微妙でした。序盤の探り合いの緊張感が好みでしたが、ストーリーチャート解放後の緩やかな探索パートは退屈で、クライマックスについてもなんかこう…響くものがありませんでした。

間違いなく言えるのが序盤は最高でした。何がなんだかわからない恐怖というのがホラーの醍醐味だと思うのですが、初見ではまさにそれを味わえ、秀逸な演出も相まって、これはすごいぞ!と興奮したのを覚えています。

しかし、本作はそのホラーについてのネタバラシが早く、怪談的な恐怖はすぐに失われます。そして能力バトルに転換されていくのですが、これがまたジョジョのスタンドバトルのようで面白かったです。能力者かどうかの探り合いや、緊迫感のある状況変化は『銃声とダイヤモンド』のようなスリリングなライブ感があり、夢中になってプレイできました。

が、残念ながら、この能力バトルも早々に落ち着いてしまいます。ストーリーチャート解放後は脅威の欠けた平和なミステリーパートが続くのですが、これがダルかった。つまらない!というわけではないけども、ホラーの恐怖、スリル満載の能力バトルといったストレスシーンがなくなり、心理的に楽勝すぎたというのが、張り合いのなさ、退屈さにつながったと思います。

キャラクターへの感情移入

キャラクターもあんまりハマらなかったです。全体的にノリが軽めで、良くも悪くも茶目っ気のあるキャラクターばかりなため、キャラクター自身から感じられるシリアスさに欠けており、どこか他人事感というか、作り物感がありました。もっとキャラクター自身から発せられる熱量みたいなものを感じたかったです。唯一感じられたのは夫人と、あと意外にも探偵が見た目に反して渋いキャラでしたね。

エンディングも複数ありますが、いずれも取ってつけたようなバッドエンドで、ドラマがなさすぎて、呆気ないというのが第一印象。それはトゥルーエンドについても同様で、各キャラクターの思惑が一言二言で説明できる程度のドラマにしかならなかったというのは、ある意味本作を象徴していて、不足を感じずにはいられない終わり方だったなーと。

刑事もねえ…。可愛げはあるけどもシリアスな状態でそんな軽いボケツッコミの応酬やってていいのか?という違和感の方が上回りました。可愛げを見せるなということではなく、ハードボイルドというフリが弱すぎるのが問題であり、結局のところボリューム不足ということに帰着するのだと思われます。

資料補足が多すぎる

置いてけ堀

ゲーム内の用語集も兼ねる資料は便利で、内容もかなり充実しているのですが、逆に充実しすぎて本編以上の情報量になっているのは問題かなと思いました。

本編データ+ちょっとした小ネタならまだいいものの、本編のドラマで描かれるべき内容がサラッと明かされているのがもったいなさすぎるな~と。あまりにも詳細に記載されているため、最初はバグとか不具合かな?と思うほどでした。

そして、その内容が当たり前の事実のようにキャラクター間ですぐに共有されることも違和感がありました。資料を読む時間というのは、ゲームを一時停止した、いわば舞台から降りた状態であり、舞台で描かれていない情報を基に話が進行していくというのは、雰囲気ぶち壊しとまでは言わずとも、フェアではなく、置いてけぼりに感じてしまいました。

また資料を前提にした謎解きも辛く、せっかく本編は2行くらいの平易な文章で進行していくのに、お硬い資料の文章をクドクド読まされるのは苦痛でした。

総合:いいクリエイターと出会えたのが1番

総合すると、かなり良い作品ではありますが、低ボリュームからくるドラマ不足が残念、というのが率直な感想です。資料の件もアイディアはあるけれどこうせざるを得なかった感が伝わってきて、なんとも惜しいなと…。ただ、そんな限られた尺の中でもあれやこれや策を凝らしているのは面白かったし、その努力が認められて、高いユーザーレビューやゲーム大賞といった結果に反映されているのだろうと思います。

あと個人的に最大に称賛したいのが、各エンディング後にクレジットスキップできること。マルチエンディングゲームでは必ず実装して欲しい機能ですが、本作の場合、スキップしなくても低予算で開発されたことがわかるくらい本当に短いクレジットなんですよね。リードデザイナー、グラフィッカー、数人のプログラマー…。後はほとんどパブリッシャー関係。それでもさらに短くするか!?という驚きがありました。

ヒント機能もそうですが、プレイ時間を引き伸ばそうとする仕様にはいくらでもできたはずで、それなのに細部までプレイヤーのために考えて作りこまれていて素晴らしいです。この潔さ、本編で勝負しようと自身に満ちた部分に、賞を受賞されるべくしてされたクリエイター魂があるのかなと。

個人的にはあまり響かなかった作品でしたが、それでもセンスの良いユーザーフレンドリーなクリエイターがいることを知れたのは喜びで、このチームで作られた次回作があるならぜひともまた購入してプレイしたいと思いました。

PARANORMASIGHT: The Seven Mysteries of Honjo on Steam
How far would you go to bring someone back from the dead? Discover the depths that some will go to in this horror-advent...
  1. パラノマサイト配信ガイドライン ↩︎

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