さっそくEpic版をプレイ。
監視社会の監視する側
Orwell: Keeping an Eye On You(オーウェル・キーピング・アン・アイ・オン・ユー)は、ドイツのデベロッパー、Osmotic Studiosによる監視社会をテーマにしたシミュレーション/アドベンチャーゲーム。
舞台は「ザ・ネイション」という架空の国。プレイヤーは「Orwell(オーウェル)」という監視プログラムを用いて、最近発生した爆破テロの犯人を特定するため、市民の監視とその報告を担当するオペレーターとなります。
この作品はジョージ・オーウェルの1984年にインスパイアされたものであり、現代のネット社会においてその架空の世界を実現した場合にどのような影響があるかを描いています。
「ビッグブラザーがあなたを見ている」ではなく、「オーウェルがいつも見ている」というのがなんともユニーク。
ゲームの流れ:情報を集めてアップロード
一言でいうと、読むゲームです。
プレイヤーの役割は、ウェブサイト、SNSなどから情報を集めてサーバーにアップロードし、必要なプロファイリングを完成させることです。電話番号やPC識別番号を手に入れることで盗聴を通じても情報を入手できるようになります。
すべての情報を読み解くのはなかなか大変ですが、必要な情報のみ自動で抜き出してくれるため、要点だけ読むプレイでも大丈夫でした。
どんな情報でも報告すべきですが、黄色のハイライトのみ注意が必要です。これは、競合するデータが存在することを意味し、その中から1つしかアップロードできません。この選択によってストーリー展開が変化します。
といっても、極端にストーリーが変化するようなことはなく、不幸になる人を減らせて良心を傷めずに済むという側面が大きいですね。また、実績解除にも関連しています。
最も影響力のある選択は、クライマックスに訪れ、その選択によってエンディングが変化します。
クリアまで約3時間半
プレイ時間は約6時間半。1周目はじっくりプレイで3時間半、2周目はサクサク進めて3時間弱でした。
すべてのエンディングを見たわけではありませんが、個人的に満足できる終わり方を2つ見たのでクリアということで。
インストールサイズは上の画像の通り、634MBでした。
リプレイ性と翻訳にやや難点
選択によって展開が少し変化するマルチエンディング方式ですが、セーブ&ロードを自由に行えないため、やり直しがやや面倒な仕様となっています。
一応、ゲーム開始画面のプロファイルオプションから各章のやり直しが可能ですが、選択肢のところまで進めるのにも時間がかかります。その大部分がチャットや通話の盗聴で、これらはリアルタイムで進行するのでスキップできません。設定で早送りできますが、それでもかなり遅いです。臨場感こそあれど、2回目以降は待たされる感覚の方が強く、やり直す気持ちが削がれました。
翻訳については十分意味を理解できるレベルです。ただ、意味は通るけれどニュアンスが変だなと感じる箇所がいくつかあり、シンプルに誤字脱字も多かったです。まあ、最低限だけ読んでいれば大丈夫なゲームなので、致命的な欠点ではないです。
感想:意外に深い内容とサプライズに感動
典型的なディストピア物だろうな~と軽い気持ちでプレイを始めました。実際最初の方は国が悪役として描かれる予想通りの展開で、あぁやはりと思ったのですが、それに対抗する正義側というか、反体制側の描かれ方が多面的で深みのあるものでした。
「行動」の手法や場所について揉めていたり、政府の提灯記事で金稼ぎをしていたり、恋愛の軽口が飛び交うこともありました。これらは切り取り方によっては、過激派、守銭奴、色情魔のように映りますが、あえて付け入る隙を描くところに、作品としての深さを感じました。
説教っぽさや偽善的な部分はなく、嫌な部分も含めて描かれているので、より本音で語られていると思いますし、だからこそ響く言葉があるなぁ、と。ストーリーの最後にはハッと驚かされる展開もあり、軽い期待感を裏切って自分でも驚くくらい心を揺さぶられた作品でした。
現実の延長線
本作が特に強調しているのは、主観によって変容する状況証拠の危険性です。
プレイヤーは情報を収集する調査員ですが、国家に雇われた人間というだけで、国家の人間でもなければそれに従う義務もありません。つまり、便宜的には中立を保障されています。
しかし、アドバイザーなるパートナーが存在し、こちらはバリバリの国家側の人間です。集めてくる情報に対して彼がいちいち口を挟むため、中立的に情報を集めているつもりでも、バイアスを受けやすい状況下だと言えるでしょう。
その結果、冗談は本音に、愚痴は犯罪予告になり、いとも簡単に危険分子が作られていくわけです。
こうした恣意的な文脈での切り取りは、別に監視国家ではなくても起こり得ること…というか起きていることです。そういう点で、身近な題材として受け入れやすく、架空の話ではないように思えました。
リアルなネット空間
盗聴や端末への侵入といった非合法的手段を用いることが多いとはいえ、公開された情報から得ることの方が圧倒的に多いです。そんな本作のネット空間は、ネットを舞台にしたフィクションの中でも特にリアリティを感じられました。
フィクションでのネット空間は、ネットスラングの羅列だとか、炎上を囃し立てる空気感とか、集合知的なものとして戯画的に描かれがちです。それに対して本作のネット空間は内輪ノリがほとんどです。身内同士で軽口を叩いたり、小さな自尊心が見え隠れしたり、政治に目覚めたことを腐されて、言い返したり、横入りするネット戦士がいたり。面白くもなんともないけれど、個人的にこっちのほうがよく見る光景ですし、現実感がありました。
エンディングについて
最初は悪者役になってバッドエンド見たろ!と、好き勝手やってましたが、徐々に良心が咎めだし、最終的にはすべてを暴くトゥルーエンドっぽい結末に至りました。2周目は最良を目指し、無事グッドエンディングっぽいものを迎え、気持ち良くゲームを終えました。
2周目の方が最良だったし、スカッとする結末でしたが、間違った選択をした1周目の方が感動しましたね。痛みがあったからこそ気付きを得られたし、何より自分の選択によって展開が変わるライブ感に夢中になれたので。
この種のゲームでは、トゥルーエンド以外は成功できなかったと感じることが多いですが、本作の場合は逆でした。
当事者にならなければわからない
エンディングが示唆しているのは、監視する側もされる側も、当事者である事実からは逃れられないということだと思います。
その当事者としての実体験が、非常にリアルにシミュレーションされた作品でした。
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