民間人視点で描かれる3つのシナリオ
Ukraine War Storiesは、2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナ侵攻を題材にしたビジュアルノベルADV。キーウのゲームスタジオによって制作された本作は、ウクライナ戦争の実情を広く伝えるために無料で提供されています。
舞台となるのは、アントノフ国際空港の戦いで有名なホストメリ、虐殺の都市ブチャ、そしてアゾフ連隊が激しく抵抗したマリウポリ。これらの地で実際に起きた出来事をモデルに、民間人の視点で描かれる3つのシナリオから構成されています。
ゲームシステム:選択式ADV
ゲームシステムはオーソドックスな選択式アドベンチャーゲームです。文章を読み進めながら、時折表示される選択肢によって展開が変化していきます。
選択によって主に変化するのはキャラクターたちの心理状態で、主人公の心理状態が0になるとゲームオーバーとなります。
ようはストレス管理ゲームのようなものですが、そもそもゲームとしての面白さを追求した作品ではないので、ゲーム性は薄く、極限状態を演出するための仕掛けの1つといったところです。
クリアも非常に簡単で、選択前からパラメータが公開されているので、よりダメージの少ない選択肢を選んでいけばいいだけです。自分のプレイでは、数値にこだわらず、キャラクターになりきってプレイすることで、より臨場感を感じながらプレイできました。
プレイ時間は、各編10~30分程度で、やり直しなどを含めても3編で合計約80分でした。
感想:緊張感への共感
個人的にこの戦争で衝撃的だったのは、今の時代に侵攻かよ!ってのもありますが、それ以上に容赦ない無差別攻撃が現実に起きていることでした。ブチャの虐殺はターニングポイントとなった事件でしたし、今なお続くマンションやショッピングモールなど民間人を狙ったミサイル攻撃はもはや不可解としか言いようがありません。
本作はこうした状況の概観にとどまらず、侵攻初期に現地のウクライナ人たちが経験した内面の描写に焦点を当てています。
特に印象的だったのは、ホストメリとブチャのシナリオにおける、ロシア兵との対峙のシーン。一軒一軒訪ね歩くロシア兵、鳴り止まない爆発音、そして我が家のドアが叩かれる音…。ただ自宅待機しているだけなのに、常に死と隣り合わせであることを感じさせるこの時の緊張感は、主観形式のビジュアルノベルでしか描けない臨場感だったと思います。
怯える民間人とそれを狙うハンターという構図は、アンネの日記のようでもありましたね…。理念は真逆なはずなのに。
それにしても、侵攻初期というと、戦力的に充足していた=洗練された軍人のはずなのに、この時点ですでに倫理観がヤバかったというのは、あらためて異常なことだなと。ある記事1によれば、事前に排除予定者リストを作成していたとのことですから、用意された計画に基づいて行動せざるを得なかったのかもしれませんが、それにしても略奪や暴行が目立ちました。
①略奪、②クリミアのときから持続している戦争という意識、③国内の内通者の存在、これら3点の描き方はプロパガンダとしての色彩が強い描かれ方だったように思います。忘れちゃいけない的な。
…
本作では危険地帯からの脱出というのが1つの救いとしてありますが、それも結局は根本的な解決ではありません。暴行を受けた女性がPTSDになる様子も描かれていましたが、一度経験したトラウマから解放されることは難しく、戦争が終結したとしても、心の傷跡が癒えるまでには時間がかかることでしょう。こうした困難に打ち克つポジティブさはなく、選択的盲目というべき、手だけ動いているような極限状態でいる様子が痛々しくも伝わってきました。
短時間でサクッとプレイできる作品なので、ぜひプレイしてもらいたいですね。
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